凍れる微笑


一日に一度、決まった時間、決まった格好で彼はくる。
いつも、決まった笑顔で表情を彩りながら。



「やぁ、ルック」
「何?何か用?」
「約束の石版を、ね。刻まれた名前は増えたかい?」
「こことそこ」
「あぁ、あの子も宿星なのか……少し意外だな」
「僕に言わせれば、君みたいなお坊ちゃんが天魁星だって事自体、信じられないけどね」
「なかなか手厳しいな、ルックは」
「別に。本当のことでしょ」
「そうかな?僕は自分をそれ程お坊ちゃん育ちとは思わないけれど……」
「総じて自覚がないものでしょ、そういう人は」
「なるほど。そういうものなのか」
「そうだよ」
「……」
「……」
「ところでルック、今日の夕餉は済ませたのかい?」
「まだだけど」
「じゃあ一緒にどう?」
「……先約がある」
「そうか、残念だ。今日はシーナ?それともビクトールかな?」
「……誰だっていいでしょ。君に何の関係があるのさ」
「それもそうだね」
「そうだよ」
「……」
「……」
「ルックが駄目となると、さて、他に誰を誘うべきか……」
「誰だって君が声を掛ければ断らないんじゃない?」
「でも、ルックには断られたね」
「……訂正するよ、僕以外は」
「軍主の誘いを断れるのは、ルックぐらいだものね」
「何?嫌味?」
「違うよ、君を誉めているんだ」
「じゃ、何で笑ってるのさ」
「僕が?」
「そうだよ、君はいつも笑ってる。軍主としてどうなの、それ」
「僕が笑っている?」
「……」

「僕がいつ、笑ったの?」

そう……笑いながら、君は言った。









 彼はいつも笑っている。
笑う手前の、小さな微笑を口元に添えている。
僕は、ただ約束の石版をじっと見つめた。
舌打ちを口内でかみ殺して、笑顔を連れ去っていった男の名前を指でなぞってみた。
「?何やってるんだ、ルック。メシ食いに行くぞ?」
「……うん」

石版の冷たさは、あの日触れた凍れる微笑に似ていた。











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